机に向かってバリバリ仕事をしている父の後ろ姿を、三人の小さな子供たちが部屋の外から覗いているイラストが、インタビュー記事に載せられていました。半世紀以上前のことです。記憶に浮かぶイラストから、子育ての方針は「仕事をしている自分の背中を見せることだ」と父が答えたのだろうと推測されます。
現在、「非認知能力」という言葉をよく耳にします。これは「数値で計測できない能力」を指し、具体的には協調性や自己管理能力などが含まれます。背中を見せて伝えたかったものに、この「非認知能力」という言葉が与えられるようになったのだと受け止めています。
「非認知能力」への注目が高まっている背景には、AIの飛躍的な進展があります。数値で計測可能な能力が分析され、AIによって代替される危機感を抱く人も多いようです。また、この能力は必要性が認められながらも、その育成方法が組織化されていなかった分野でもあります。そのため、今、その育て方が問題視されています。
その結果、「背中を見せて育てる」だけでは不十分で、求めることを言語化する必要があると指摘されています。教える側は、この点を十分に理解しなければなりません。
一方、学ぶ側に立つと、教え方が悪いから伝わらないと開き直るのではなく、非言語的に伝えられることを読み取る努力が、自身の非認知能力を高めることにつながると考えることも重要です。
茶席には主客の振る舞いに限らず、非言語的メッセージが満ちています。たとえば、茶器の扱いや立ち居振る舞い、静かな余韻など、これらを読み解くことで非言語的能力を高めることができます。そんな意識を持って稽古に臨むことは、茶道の魅力を再発見することにもつながります。