大日本茶道学会 - 公益財団法人三徳庵

令和7年5月:スキーマ

「わかりやすく教えれば、教えた内容が学び手の脳に移植されて定着する」という考えは幻想であることは認知心理学では、常識だそうです。

 「わかりやすく教えてもらったら理解できたのに、なぜ」と思う方もおいででしょうか。認知心理学が説くのは、わかりやすく教えれば、<どんな場合でも>わかってくれるわけではない、ということです。

 認知心理学は、「何度教えたらわかるの」と相手に対して怒りを覚える前に、「わかりやすく教えれば、伝わるとは限らない」と立ち止まることを教えてくれます。相手に受取るスキーマがなれば、伝わらない、というときのスキーマとは、「ある事柄についての枠組みとなる知識」を意味します。

 私たちは、家族など経験をともにした人に限って、「あれなんだっけ?」と聞いています。共通の経験をともにしていない人に「あれなんだっけ?」と聞いても答えが返ってこないということは、十分にわかっているわけです。共通の経験の幅を、家族だけで共有できる狭いものから、もっと範囲を広げた場合でも、スキーマということが出来ます。相手がわからない、という可能性について、思いがいたらなくなる傾向が、行き違いにつながることが、スキーマに注目すると、浮かび上がってきます。

 日本語では、兄弟姉妹と生まれ順の差の意識が明確にあるのに、英語では、子供たちの間の生まれ順の差が明確に表現されていないというように、ものごとをとらえる無意識の枠組みに注目することが、学習には不可欠です。

 茶道の世界でのみ共有されている無意識の枠組みとは何か、ということに自覚的になって、教え、学ぶことが、脱皮を遂げるためのポイントになるのではないかと考えています。

参考文献 今井むつみ『学びとは何か』岩波新書

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