大日本茶道学会 - 公益財団法人三徳庵

令和7年3月:啓蟄

三月になって少し寒さが和らいで、母が外出しようとすると、父は「虫が動き出したね」と声をかけていました。

「立春」ではじまった二十四節気も、「雨水」を終えて、「啓蟄」に入ってきたことを踏まえてのことであるとわかったのは、いつ頃からでしょうか。「冬ごもりをしていた虫たちが土の中から出てくる頃」という意味は、寒くても通勤・通学する中、アスファルトで舗装された道を歩いているのでは、虫に出会うこともなく、実感しにくくなってきています。しかし、外出の際に、重ね着をしたくなるのも、冬ごもりの一種といえましょう。年明けからの寒さに、冬ごもり状態でした。

また、季節の変化は、さまざまなものが知らせてくれます。

春夏秋冬を六分割した二十四節気を、初侯、二候、三候とさらに三分割したものが七十二候になります。
蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)、桃始笑(ももはじめてさく)、菜虫化蝶(なむしちょうとなる)と、七十二候では、啓蟄は細分化されます。生き物が冬眠から目覚め、花が咲き始め、蝶が羽ばたく、といった具合に周囲を細かく観察したくなるのは、春の訪れを待つ心のなせるわざと言ってみたいところです。

昆虫に限らず、昔は蛇や蜥蜴、蛙なども虫と呼ばれていたのは、それぞれの漢字に虫偏がついていることが物語っているとおりです。
新年からのスタートが遅れていたとしても、巳年の今年は、これから蛇が穴から出て動き始める時期と気を取り直してまいりましょう。

脱皮しても、蛇は蛇で在り続けるように、脱皮とは、新たな環境に適応するために、古い固定観念を脱ぎ捨て自由になっても、本質は変えない変化であると意識して、茶道を見つめ直してまいります。

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