厚生労働省が、パワーハラスメントに続いて、カスタマーハラスメントへの配慮を事業主に求めたのは、令和2年で、三波春夫の「お客様は神様です」という言葉が発せられてから60年たってのことです。
「顧客からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為」から、従業員を守れるべしというという要請に、駅員さん達が、酔客からの暴言に悩まされているという報道を思い起こしました。
タクシーにパワハラ内容を示したシールが貼られて、確かに迷惑なことをする乗客もいるのだろう、と受け止めていました。しかし、病院の窓口でも目にするようになると、「あなたのしていることは犯罪です」と宣言することだけで、減らせるのだろうか?と違和感を抱くようになりました。
人間関係のトラブルに関して、「仲が悪い」あるいは、「間が悪かった」という言い方をしていたのに比べると、「パワハラ」、「カスハラ」は、上司なり、顧客なりが一方的に悪いと断罪するような調子があるように聞こえてしまいます。
もちろん、断罪しなければいけない対象も増えてきたのでしょう。同時に、わたしたちの間で、「いっしょに物事をする間柄」であるという意識が薄れ、双方が協力し合うという姿勢が減ってきたという傾向が底流にあるのではないか、と危惧しています。
三波春夫は、「雑念を払ってまっさらな、澄み切った心にならなければ完璧な芸をお見せすることはできない」と考えて、「お客様を神様とみて、歌を唄った」といいます。歌手の澄みきった心に感ずる観客がいて、最高の舞台がなりたったのではないでしょうか。
「神様」は、わたしたちの願いに応えてくれる存在で、いっしょに願い事を実現する仲間でもあったということを、思い出す必要がありそうです。