『茶道古典全集』で『天王寺屋会記』という名称が与えられて以来すっかり定着した名称が変更されました。昨年の十月に他会記、四月に自会記を収録した『茶書古典集成』(淡交社)は、『宗及茶湯日記』という書名を採択しています。
津田宗達・宗及・宗凡三代の茶会記を『天王寺屋会記』と名指してきましたが、これからは、『宗及茶湯日記』と名指さす機会も増えると思います。
書名は、底本の「題箋」または「外題」に従うのが書誌学の原則です。本書には、正本が存在するので、この原則を適応できるとはいえ、長年親しまれた書名を変更するには、思い切った決断が必要だったと推測します。混乱を来さないように「宗及茶湯日記[天王寺屋会記]」という表記が古典集成シリーズの巻名に採用されています。
『宗及茶湯日記』といっても、自会記は、宗達・宗及二代、他会記は、宗達・宗及・宗凡三代の記録に加え、江月覚書を含んでいますから、それらを総称する名称として『天王寺屋会記』と命名した判断は、この茶会記の普及にも貢献したものと思います。しかし、新たに翻刻するに際しては、より厳密に学問的に取り扱うという姿勢が、書名の扱い方に表されています。
注記や索引の充実はもとより、会記一覧にも工夫が凝らされ、宗達・宗及の行動地図・堺推定地図も掲載されています。私は、『天王寺屋会記』は、それなりに読み込んできたつもりでしたが、新たな参考資料の助けをえて、最新の翻刻で、一から読み直しているところです。
しっかりした「古典」の翻刻が提供されることは、茶人が学ぶにあたって役立つだけではなく、茶道研究の評価を高め、新たな研究者を生み出し、ひいては、茶道への関心を広げ、茶道を学ぶ人を増やすことにつながることを期待しています。