国立競技場も完成し、お正月のサッカー天皇杯が杮落としの競技として行われました。
いよいよオリンピックの年になったという実感が沸きます。
ありがたいことに、昨年からいろいろな場所で呈茶を依頼されることが増えてまいりまし
た。秋には、紅葉を見る庭園公開の一助として、一服抹茶を差し上げる機会がありました。
来訪される方々は、紅葉を目的で出かけられます。そこでの抹茶の提供は、堅苦しく
なく、ゆったりとした時間になればと考えて準備をいたしました。
庭園開放の当日、三々五々と席を訪れるみなさまは、大きなガラス越しに見える庭に
うっとりされています。はじめは、いつもの茶席のように、すぐに菓子を運ぼう、また、菓子
を出したら抹茶を点てようと、自分たちのペースで用意してしまいます。何度か繰り返す
うちに、もっとゆっくりでもいいのではないかと、抹茶を召し上がっていただくことが中心で
はなく、紅葉狩りのお供の抹茶と菓子になるようにタイミングを見計らわなくてはと気づいて
きました。
それでも間が取れないので、「どこからいらっしゃいましたか」「お庭にはもう出られました
か」などと声をかけると、「久しぶりの抹茶をいただきました」「温まって心がゆったりするわ」
「作法を知らないけどいいかな」など、みなさんそれぞれに感想を述べてくださいました。
茶席では、時間と所作を気にしてお客様と目と目、ちょっとした言葉でコミュニケーションを
とる努力をしていなかったと、この呈茶を通して実感しました。
抹茶の席がもっと身近なものになるには、私たちもただ物を運ぶだけではなく、コミュニケー
ションをとろうという姿勢を持つ、つまりは日常の生活の中での、小さな声掛け何気ない会話を
大切にした形が、人を心でもてなすことにつながり、身近な存在になるのではないでしょうか。
教場長 田中 仙融 (令和2年2月発行 会報「えんじゅ102号」掲載)