大日本茶道学会 - 公益財団法人三徳庵

茶道コラム第50回「手仕事の味わい」

 道具を手にして「いい仕事してますね」という鑑定士の決めゼリフ、印象に残って
いらっしゃる方も多いかと思います。
 茶会などに伺って、道具を拝見するときにも、心の中でこの「いい仕事」という
言葉が先に浮かんできて、そのことに満足感しているなんてことありませんか。
 
 実はいい仕事の意味を本当につかんでいなかったということに気づかされること
がありました。
 三徳庵の会員手帳を製本や印刷に詳しい方にお見せしたら、思わぬ高評価を頂戴
したからです。長年見ている会員手帳です。これといって特徴があるわけでも、また、
工夫を凝らしているとも思っておらず、ただ、素材と技術の変化で、鉛筆を付帯
できなくなったときには、皆様をがっかりさせてしまったことだけは記憶していました。

 気が付かなかったのですが、会員手帳は書き込みやすいように180度開くように
中綴じで仕上げてあるそうです。言われてほかの手帳と比べると、180度は開きません。
 また、一週間の予定を書き込める月々のページは、わかりやすいように、月の名前が
小口に色分けと共に記されています。裏表紙にも何かを挟めるようにビニールのケースが
ついています。これらのことが「こだわり」「いい手仕事」なのですと言われるとなるほど
と納得します。最近は手帳を持ち歩かずとも、いろいろな予定を把握できるほかのものが
あるので、手帳だけを大切に使ってきた時代の人たちの思いによってこだわりがいままで
続き、作られてきたのだと改めて思い、感謝したくなりました。

 茶道で使う道具も表道具は大切にしています。でも帛紗や柄杓、茶筅や茶巾、そして
建水などあまり日の当たらない見過ごされてしまう道具でも、約束事を守ってきちんと
作られているものをもっと大切にして扱っていかなくてはいけない。そうしなければ、
ないから仕方がない、どうして変わってしまったのかしらと「いい仕事」をしてくれる
人たちも失ってしまうことになりかねません。道具を作ってくださる方があっての
それを使う茶人です。もっと作られたものも味わって愛でなくてはいけませんね。

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