七事式の稽古では、亭主と客、または、東、半東と客などその役割を決めて所作を
学びます。みなそれぞれに一生懸命にその役を務めます。
茶会の際にも、点前、給仕、案内、下足、水屋と担当を決めますが、水屋の中でも
茶を点てる側と茶碗を洗う方、人数が多ければ菓子の盛り付けなども分担されること
もあるでしょう。
しかし自分に与えられた役割というのは、それをするだけでは不十分だということは、
よくご存知だと思います。七事式であれば、参加する全員の動きを把握しながら、自分
もそれに合わせて動くということが求められています。よく指導の際にも「一緒に」とか
「あわせて」という言葉が聞かれるのではないでしょうか。
茶会の場合も、やはりその部分だけを努めていては、全体がうまく進みません。
菓子の持ち出しなどが手間取っているのに、急いで点前をするようにといわれたからと
いって、お客様がお菓子を召し上がる前に茶が点ってしまっては、その場で点前をする
意味がなくなります。一席の人数を決めていても、多少の変化はあるでしょう。案内の人
が水屋に伝えなければ、菓子や茶が足りなかったということにもなりかねません。
このように自分の与えられた事柄から、全体を見回して行動するということが大切です。
これは、茶の場面だけではなく、日常生活の中でも必要とされていることなのです。
運転をしていたり、道を歩いているときには、対向車や、向こうから歩いて来る人たちの
動きをよく見て考えて、行動していませんか。自分はこの車線を走るとか、向こうに行き
たいと思っていて、回りを見回していなければ、事故が起きてしまいます。言ってくれたら
よけたのに、では、遅いことは分かっていただけると思います。
確かに私たちは日々、自分の与えられた事柄を一生懸命に行っています。でも、一人
ではないので、周りに配慮し、できることがあれば手を差し伸べるといった気持ちを持つ
ことが大切なのではないでしょうか。
亭主一人では茶の湯ができないように、誰かがいてくれるから、自分がいる。自分の
役割も、他の人がいるから与えられていると考えながら行動していくと、すべきこと、もっと
したいことが増えてきて、いわゆるはたらきのある人になれるのではないでしょうか。
教場長 田中 仙融 (令和元年10月発行 会報「えんじゅ101号」掲載)