茶道の流派はたくさんあります。一碗の抹茶で人をもてなし、ゆったりとした時間を
過ごしていただきたいという考え方は同じだと思いますが、それぞれに大切にしている
事柄には違いがあります。
茶道の歴史を繙いてみても、公家、武家、町人いろいろな人達の中で育まれて
きた茶道ですので、主とする考え方に違いがあるのは当然だと思います。
しかし、茶会などで違った流儀の方と一緒になった時に、相手の作法を尊重する
ということがなかなかできにくいようです。「こんな方法が」とびっくりすることもあり
ますが、それは先様のお考え、なるほどと思って口出しをしないことが肝要です。まあ、
相手の方を注意なさる方は少ないと思いますが、自分たちが間違っていると思い、意味を
考えずに所作を変えてしまうことがあるのがとても残念です。
最近気になるのは、大寄せの茶会で、給仕の方が両手に茶碗を持って帰られる姿です。
一碗を持つ時でさえ左掌にのせた茶碗に右手を添えて大切に扱うのに、片手で茶碗を
扱うとは乱暴だと思いませんか。他流の方ならともかく、私たちは、小習の重茶碗を
学んで重ねることのできる茶碗と、重ねては危険である茶碗の形を知っています。重ねて、
高台がしっかりと安定して、そして、口辺が重ならなければ重ねても大丈夫なはずです。
しかし、数茶碗だからといっても、口辺で上下の茶碗が重なるような形は茶碗の口辺を
損じることがありますので、重ねてはいけない茶碗ということになります。
茶会以外でも、本部の教場の水屋で茶碗を重ねてしまうとき、この原則を活かして
いるでしょうか。また茶碗を重ねる時は、小習の作法に則って行っていただきたいと
思います。
せっかく一生懸命に稽古をしている点前です。ご自身が点前座で茶を振る舞うとき
だけにその作法を利用するのではなく、給仕や水屋での道具の扱いにも応用できてこそ、
素敵な茶人と言えると思います。点前の復習と思ってその幅を広げてみましょう。
教場長 田中 仙融 (平成31年2月発行 会報「えんじゅ98号」掲載)