『茶道の研究』を購読されている方は、会長の「こしかた」を読んですでにご存知と思いますが、
私ども三人の兄妹は「アトム世代」といっても良いでしょう。
21世紀の未来に、昭和の時代には考えられないようなハイテクノロジーの漫画は、夢のある
ものでした。今振り返ってみると、手塚治虫さんが描いた世界は、もっと先を行っているようにも
思えます 。
住宅の中でお掃除ロボットが出てきたり、工場はロボットが働いている姿は、あの時代には
想像だにできませんでしたが、少し形は変わっても、かなり実際の生活と似通ってきています。
そのために、この頃はAI時代と叫ばれるようになっています。素敵な茶人を目指す私としては
「AIに負けるな。人間はもっと優れていますよ」と大きな声を挙げて叫びたい気分です。
何が勝っているのかといえば、もちろんそれは、あの優秀なロボットのアトムが欲したものです。
といってもなかなか思い浮かぶ方は少ないかもしれません。私にとって衝撃的な場面です。
アトムが自分の胸をあけて、「こころが欲しい」と懇願するシーンです。
幼いころは、ロボットには心がないのだというくらいにしか考えませんでしたが、心臓には
ハートが心があるという目で見た印象が強く残っています。
今、この時代になって思うことは、手塚治虫さんが、どんなに機械化が進んでも、機械に心を
持たせることはできず、人間と同じようにはならないと、はっきりと未来の科学の発展とともに
忘れてしまわれそうなことに、すでに警鐘を鳴らされていたように思えるのです。
正確に間違えないように点前をすることだけを目標にするなら、機械の方が優れているのです。
心を込めて、人を敬い、調和することを忘れないでこそ、私たちの目指す茶道があるのではない
でしょうか。そして、それを日常にも活かしていくと、またもう一つ素敵な人になると思いますよ。
教場長 田中 仙融 (平成30年11月発行 会報「えんじゅ97号」掲載)