「田中君は、家では抹茶しか飲まないの」と聞かれたのは、中学生の頃でした。皆様は、
もちろん茶人だからといって、コーヒーも紅茶も飲まないわけではないということはよく
ご存知だと思います。それなのに、「茶道の理念を日々実践する」と聞いたら、実際に茶会を
開いたり、稽古をする、とまではいかないにしても、少し難しく考えてしまっているのでは
ないでしょうか?
「茶道の理念」とは、茶道を通じて体得したものを抽象的に表現したものです。しかし、すこし
堅苦しすぎて難しく考えさせすぎてしまったかもしれません。
例えば、稽古場で所作が荒い、脇が空いていると言われたら、吊り革に手を伸ばす際に
手延ばし方に気を付ける、だけでも「茶道の理念を実践する」ことになります。
歩く時に足音に気を付けるように言われたら、それを畳の上を歩く時だけでなく、靴を履いて
道路を歩く時でも、足音が荒くないか、省みるのも実践です。
もちろん、「和漢の境を紛らかす」という言葉を聞いて、現代において和漢の境を紛らかす
ことはどういうことだろうと考えるのも、実践になります。「理念」ということばからは、
そちらの方がイメージに近いかもしれません。
それならば、「理念」をアイデアという英語に置き換えていただいた方が、良いかと思います。特に
高尚である必要はなく、考えたこと思ったことすべてがアイデアなのです。つまり、茶道を通じて
気が付いたことを、少しでも日常に生かすことが実践です。それならば、日々実践できますよね。
会長 田中 仙堂 (平成30年5月発行 会報「えんじゅ95号」掲載)